書評 #6 プロ野球チームの社員(高木大成)

唐突だが著者の高木大成氏(西武ライオンズ-西武球団社員)とワシは同学年で、いわゆる「イチロー世代」である。 ざっとこの世代の有名どころを上げてみると

(野手)イチロー/中村紀洋/小笠原道大/松中信彦/清水隆行/磯部公一/小坂誠
(投手)石井一久/三浦大輔/門倉健/薮田安彦

名球会選手3人、平成唯一の三冠王となかなかのものである。(かといってワシがいばる話でもないが…)

そんな世代の一人である高木氏も大学から西武に入団して、2年目にはレギュラーに。主力として97,98年のパリーグ連覇に貢献した。その後はケガに泣かされ思うような活躍ができず、05年をもって現役引退。そこからこの本は始まる。(約1/3くらいは自身の野球人生について振り返っており、そこもそこで興味あるが、ここでは思い切ってはしょる)


05年オフ、来年の選手契約を考えてないと告げられた高木氏(以後大成氏と書かせてもらう)は、同時に球団社員のオファーを受ける。現役を上がって球団に残る人のポストといえば、だいたいコーチ、スタッフ(打撃投手、ブルペン捕手、スコアラー、マネ-ジャー、広報など)、スカウトあたりが主だが、どうもそれとは違う職種らしい。

大成氏が配属されたのは営業部ファンサービスチーム。今と違ってファンサービスも乏しい当時、先輩社員とともに手探りで企画を作り上げていく。好評だった企画は『サラリーマンノック』 平日ナイター終了後のグラウンドで、大成とゲストOBが参加者に一本限定のノックを打つ。プロが使用する球場で元プロにノックを打ってもらえる、これはもう人気になるのは間違いなしでしょう(ワシも行きました)

次の異動先はなんとプリンスホテル。ご存じの方も多いだろうが、同じ西武グループのホテル会社である。実は大成氏が入社したのは西武球団ではなく親会社のコクド。その後西武グループ再編の中でプリンスホテルに籍は置かれ、球団には出向しているという形がとられていた。

これもまたプロ野球の一形態だろうなあ… 財政的にはだいぶ自立しつつあるが、人事的にはまだ親会社-関連会社の関係が色濃く残っている。このころ「大成がいまはプリンスにいる」という話を聞いたときは「球団で仕事するだけじゃなく、親会社でそれなりの仕事しないと球団内でも出世していかないんだろうな…」と思った記憶がある。

ここでもマネージャーとして宿泊企画・営業などをこなしながら、実際自分が企画したディナーショーなどでは当日の設営やら給仕など、ほぼホテルマンとして業務に携わる。

ホテル勤務を解かれ、再度球団に「出向」してからの仕事は映像コンテンツ管理。
シーズンオフはひたすら放送のセールス。試合中継のみならず例えばニュースなどでの映像使用についても放送局と交渉する。シーズン中はひたすら中継が満足いくものになっているか品質管理。

ここで話はちょっと変わるが、パリーグとセリーグの試合中継には主に権利所有の面で大きな違いがある。パリーグは全球団試合映像を自社作成して、映像の著作権は球団が所有する。セリーグは自社で所有するところもあれば、中継する放送局に著作権があるところもある。

もちろん球団に映像制作のノウハウがあるわけでなく、業務はテレビ局に委託しているので、球場にテレビ局の中継車とカメラが来て、その映像をファンがテレビなりネットなりで見ているのは同じなのだが、この「権利」の所在が、そのあとのビジネス展開において大きく違ってくるのだ。

自分たちに権利にあるとどこに中継を売ろうが自由。逆に放送局に権利があると、どの媒体に売るかは放送局の判断次第。「パリーグTVがあってセリーグTVがないのはなんで?」とか「DAZNで一部球団が視聴できないのはなんで?」というのはこれが理由。

例えば「○○選手2000本安打達成」にあたって過去のメモリアル映像を流そうとすると、自社所有映像の中から好きなだけ選ぶことができる。仮にビジター戦の映像が必要となっても、パリーグは「PLM(パシフィックリーグマーケティング)」という合同事業会社を立ち上げているので、お互いに映像を融通するのが慣例となっている。球場でのライブビューイングもパリーグ内の試合なら同じく融通の範囲でやりくりできる。

これをもってパリーグは合理的だとか、セリーグ(の一部球団)は旧態依然で遅れている、と言いたくはなるが、それはそれで一つの経営判断だと思うのでそれは今回は置いておきます。

さて話を戻そう。ここまで読むと高木大成氏は、従来の現役を上がって球団で働く一般的な職員・社員とはだいぶ違ったキャリアを歩んでいる。現場に残る人。野球とは一切離れて別の世界で働く人。人生いろいろ、野球選手もいろいろだがこういうキャリアの人ももっと増えていいよね、といった感想をもった。


こういうちょっと毛色の違うプロ野球の知識が得られるだけでなく、はしょった野球人生の部分もなかなか波乱万丈で、こちらも読んでて面白いです。特に桐蔭学園高時代、3年高木大成、2年副島孔太(法大-ヤクルト-オリックス)に新入生の高橋由伸が入ってきたくだり「これで最後のピースがはまった」と。(youtubeでは「これで甲子園が確定した」とまで言ってたのでどれだけすごい一年なんだと…)


(おまけ)
2008年 始まったばかりの「サラリーマンナイト」の写真
ノックイベントそのものは残ってなかった。

サラリーマンといえばやっぱ紐でくくった折詰のお土産でしょ。ということでわざわざ試合終了してから販売開始の「サラリーマンナイト弁当」にポリ容器のお茶。中はウナギご飯に焼き鳥。当時としてももう絶滅してたレトロな風習。

当日の客入り。14,075人。多くも少なくもなく、いたってごく普通の「パリーグ」の「平日」の入り。(もう概数発表の時代でないが、もう一つの「売れた年間席は来場の有無にかかわらず入場者数にカウントする」-これは今でもある-を考慮すると実際は1万そこそこぐらいだろう)

マスコットもこんな感じで、行列やらもみくちゃにされることなく1対1でポーズまでつけて写真が撮れた。

コメント

PAGE TOP